kiritterのブログ

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情報を扱う知恵 - 書籍紹介 - なんでコンテンツにカネを払うのさ?

5,6年ほど前、テレビに関係するシゴトで著作権周りの話があり、少し調べたことがあった。

当時思った素朴な疑問は、「ドラマやドキュメンタリー、バラエティ等々、膨大な数の番組ライブラリがあり、そして、それを観たい人はきっと多いのだから、再放送したり、DVD化したり、Web上で公開していく等々により、いくらでも活用できるのでは?(でもやってないのはナゼ?)」という話。

「古い映像とか出演者全員に許可を取っていかないとダメだし、再放送の回数とか期間とか、各種の権利処理があるんです」

そんなお話をお聞きしたのだったか読んだのだったか。

 

なるほど、一口に「著作権」といっても、実際は「コレ!」という単純なひとつの権利があるわけではなく、著作権、著作者人格権著作隣接権といった大枠の話から、私的複製、引用といった制限の話題、そして、業界ごとの各種の権利処理といった、とても複雑に絡み合った体系があるのだなということが当時ざっくり知ったこと。

まあ確かに理屈ではそういうことだと分かるけど、しかし、いろいろもったいない話。
うちの親も、見たい番組がないと嘆いているくらいだし、定額制で懐かし番組が見放題だったら、特に年齢層上の人たちなんて狂喜乱舞するのでは、とか思ったりしながら、一方で権利処理以外にも、まさに今流している番組との奪い合いにもなってという事情もあったり、とか思ったりも。

 

さて、今度はつい先日の話。

Twitterでしばしば音楽紹介するのだけど、今までは何も考えず無意識に、「うーむ、この曲はアップされていないから、リンクを載せられないなあ」そんな風に思っていたのだったが、しかし、よくよく考えてみると、そのマイナーな音源が手元にはあるのだ。しかし、それをアップするというのは・・・。しかし、実態としては・・・。

そんなことを思っているときに、そういえば、YoutubeJASRACが包括契約を結んだとかそんなニュースがあったような、ということでググった。

すると、以下のことが分かった。

著作権については解決した。なので、JASRAC管理楽曲をYouTubeで使用してもOK。
が、しかし、著作隣接権については何ら解決していないので、
自分で演奏したり、歌ったり、そういう行為によって「楽曲を使用」するのはOKだけど、
CDやテレビ映像等を著作隣接権者の許諾が得られないまま使用するのはNGです。

なるほど、とはいえ、実態は・・・?!

 

うーむ、何だかいろいろややこしい。
怖いからといって避けていると、何も貢献できないし、
好意のつもりでえいやでやっていると、迷惑を掛けたり被害を出したり違法だったりする。

 

そういえば、Youtubeの創業者がGoogleを買収先に決めた理由のひとつに、Googleが強力な弁護士集団を雇っていることがあったらしい。非常に有益な仕組みと信じてはいるが、グレーなりブラックなりの領域を走るだろうこのYoutubeという仕組みをつぶさずに、更なる発展のために戦ってくれるはずだ、そういう思いがあったらしい。

 

そんなときに書店の店頭で目に留まったのがこの本。

『なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門』
(岡田 斗司夫、福井 健策、阪急コミュニケーションズ、2011)

なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門

なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門

 

近年、iPadやiCloudを切り口としたコンテンツに関する本をいくつか目にしたけど、技術的なことだったり、課金モデルの話だったりで、意外と、著作権に深く切り込んだ本はなかった。(まあ、単純に私の視野が狭いだけで、発売されているかもしれません。。)

というわけで、この本は、著作権をテーマにした本だが、法律を詳細に解説した本、ではない。
「著作権なんて無かったらいいのに」だなんて挑発的な言葉をきっかけに発展的な議論を促す岡田氏と、著作権を専門分野として活躍されている弁護士である福井氏の対談をまとめた本である。

なので、この本を読んでも、著作権に精通できるわけではない。
が、しかし、著作権が直近の実務内容そのものというわけではない、私のような一般人としては、いきなり著作権詳細解説本を手に取ったところで、最後まで読み通すことができるかどうか大いに疑問。それよりは、著作権についてもっと知りたい! そういう動機を植え付けてくれる本の方が最初の本としては適している、そういう思い。

というわけで、著作権そのものやコンテンツ、創作活動等々、各種のテーマを横断しながら、そもそも論を交えて展開していくこの本の内容は、私としては、非常に興味深く読めて、当初の「もっと知りたい!」の目的を達した良書だった。

 

  • 著作権というのは、「唯一のコレというものがあって、それは合法、あれは違法と、すべてに機械的に白黒つけられる」そういうものではないということ。
  • 著作権は、それぞれ妥当と思える解釈が複数あるものであり、より良い人類の発展のために、人類が練り上げてきたひとつの知恵なのだということ。
  • それが、デジタル化とネットワーク化の発展により、現実とうまくマッチしづらくなっているのが現状だということ。
  • なので、そもそもの立法の意図に立ち返り、新たな知恵を出していかねばならないのだ、ということ。

 

コンテンツ創作だけで食っていこうとするのはもう無理、とか
市場規模がシュリンクすることはもう避けられない、とか
(TPPについて)単純に考えていると、欧米諸国にしてやられてしまう可能性もある、等々、
ドキリとする言葉が並んでいて、現状のちょっとした延長線上で物事を考えようとする甘い姿勢をはねつけられて刺激的である。(まあ、その分、本の後半は話が結構飛躍している面もありながら。。)

 

今後、より一層、カタチなきモノを利便性高く扱っていきたいという場面が多くなっていき、そして、ソーシャルメディアの発展により、今まで以上に大勢の人が、コンテンツの創作や利用に関わることになっていく、そんな時代においては、著作権に関する法律の知識や、そもそもコンテンツや創作活動とどう向き合っていくのかという哲学など、そういう事柄がとても重要なものになるに違いない(これまで以上多くの人にとって)、そんなことを思ったのだった。